森への感謝をかたちにする! ~生態に優しい土壌改良~ 

●はじめに

私たちの『ツリークライミングジャパン』は、多くの方々に木や森とのふれあいを通して木の暖かさや森の大切さを発見して頂き、森に感謝する心を広めたいと、ジョン・ギャスライト氏が平成11年から始めました。
そもそもアメリカから発信されたツリークライミングを日本に導入したのは、ジョンさんが英語圏出身の人であったからではありません。そこには重度身体障害者である彦坂利子さんとの出会いがあり、「世界一のセコイヤに登りたい」という彼女の夢を叶えるために、技術を学び資格を取り、スクールを開くまでになったのです。その結果、平成13年夏に二人は樹高80mのセコイヤ上でキャンプするまでに至ったのでした。
ツリークライミングとはロープ、ハーネス、樹木保護具を利用して、安全に木に登るもので、創立者のジョンさんがアメリカでレクリェーショナルツリークライミング(以下、ツリークライミング)の資格を取り、誰でも森や木とふれあえることを目指して平成13年からはNPO法人としても活動しています。

●創始者ジョン・ギャスライト氏の思い

 私たちは森に「こんにちは!今日は一緒に遊ばせてくださいね!」という気持ちで入って行きます。森では自然を構成する一つ一つが主役です。

参加者の皆さんには「今日は木と友達になって帰ってくださいね!」と声をかけ、そしてクライミングで一日お世話になる木には「今日は、よろしく!一緒に遊んでね!」とふれあって頂きます。

からだ全体で木肌を感じ、枝に座って木の上の世界を眺めたりするのです。初めは登ることに必死だった人たちも、枝に腰をかけ、鳥の視線になったとき、ツリークライミングを通じて、自然の楽しさ、すばらしさに気づくのです。帰るときには、素直に「今日遊んでくれてありがとう!」と森や木に感謝するやさしい気持ちが心の中に残り、それをお土産に持ち帰ってもらいます。

 

●樹勢回復活動の始まり

私たちがメインの活動場所としている「瀬戸市定光寺野外活動センター」の森は、コナラやアベマキ、クロバイ、ヒノキなどが混交する多様な森林で、市民に快適な森林空間を提供しています。
この森は愛知県瀬戸市の教育委員会と林野庁の森林管理事務所が管理しており、昨年1年間だけでも1,200人がこの森に足を運び、ツリークライミングを楽しんでくれました。

しかし、森の利用があまりにも人間中心に偏り、森を形作っているコナラなどの樹木にとって、”環境がごく微量ですが悪化してるのではないか?。そんなありがたい森に、これから落ち葉の布団をかぶせてお休みする間、根っこのほうから栄養とおいしい空気を吸ってもらおう!”と思ったのが、この土壌改良です。
森の木は私たちが普段見ることのない土の中で根を絡ませ、隣の木と助け合いながら立っていること。また、木は私たちにツリークライミングを楽しませてくれるだけでなく、森全体として水や空気の大きなフィルターになって、循環させてくれていることも、土を触りながら再認識させられました。そしてその森への感謝の気持ちをこめてみんなで汗を流しました。

エアーバンダー  地中に挿し込み圧縮空気を噴射する

●現場の状況と踏圧

現時点では森や樹木に外観的な衰退は見られません。むしろ、ツリークライミングを通して、森を明るくすることで、次世代の若木が育ちつつあります。
人が歩くことによって、現場土壌が締め固まることを土壌の『固結』といい、この現象によって発生する樹木への害を『踏圧害』と言います。現場にはこうした固結カ所が所々に見らます。
特に、土壌表層20cmについては、人が林内と道路面を往来することによる踏圧に加えて、道路面からの雨水流下による落葉層の流亡(欠落)が著しい場所もあり、一層、深刻な土壌の固結が進行していると考えられました。
踏圧害は樹勢衰退で最も多く見られる現象で、土壌小動物や土壌微生物の生息環境を破壊し、特に土壌表層約20cmは土壌空隙が少なく、雨水の浸透が困難で、根系の呼吸障害や枯損にもつながると思われます。

●土壌改良の方法

一般に根系の垂直分布はどんな樹木も、幼齢時には表層に多く、成長に伴って深部で多くなりますが、多くの樹木の総根量は土壌表層30cmに約5~8割が分布しています。
これまでも土壌耕運、堆肥混入、腐葉土・落葉施用を実施してきましたが、今回は特に、兵庫県尼崎市のグリーンメンテナンス社の好意で、エアーバンダーを利用し、固結した表層土壌を解しました。エアーバンダーとは大型の注射針を固結した土壌に挿し込み、圧縮空気を噴射して固結層を破壊するもので、深さ20、40cmの二ヶ所で実施しました。これにより土壌空隙が増加し、水分の浸透や涵養機能、根系の進入促進が期待できます。

土壌耕運  唐鍬や備中鍬で表層を耕運する

 

 ●実施方法とその状況

作業は「ジョン・ギャスライトと森を愛する仲間たち」のイベントに参加した総勢35人で、小雨の降る中で行われました。最初に固結ヶ所を確認し、その場の落葉落枝を取り除いた後、エアーバンダー処理、鍬による表層耕運処理、牛糞堆肥施用(10L/坪)を実施しました。エアーバンダー処理で周辺の土壌は直径3mほど盛り上がり、固結はほぼ解消されました。また、堆肥は物理的には有効土層の増進・排水性・保水性など、化学的には養分保持力や固定力・緩衝力など、生物的には多様な小動物や微生物の生息を可能にし、病虫害に対する緩衝力の増進など、その役割は多岐にわたる緩行性肥料です。これを現場土壌と混合し、埋め戻しました。
落葉は現場で取り除いたものを再び被せると同時に、近隣の保育園でゴミとして邪魔者扱いされていたカエデ類の落葉を貰い受け、同時に散布して木の葉のベッドをつくりました。

土壌改良済み 休木…土壌改良した樹木は一年以上利用しない

●おわりに

私たちは森には不要なものは何もない。すべてのものが何かの役割を果たし、生態系のバランスがとれていると考えています。これは私たち、人と人とのつながりも同様で、障害者を「障害を持った特別な人」としてみるのではなく、何かに挑戦している『チャレンジャー』として、尊敬し合い、森に親しんでもらっています。

TCJディレクター  川尻秀樹