アボリカルチャー イン アメリカの旅報告

去る7月28日~8月6日までファウンダーであるジョン・ギャスライトさんがアメリカ西海岸 ワシントン州シアトルで開催された『78th International Society of Arboriculture』の国際会議 と展示会に参加し、その後、オレゴン州ローズバーグなどで、ダグラスファーとしては世界第二位の 高さ(96m)に調査目的でツリークライミングしに行きました。
それに私、川尻秀樹(以下、ジリ)とツリークライマーである安田邦男(アンさん)さんが所謂、 『金魚のふん』として、珍道中を繰り広げてきましたので、報告いたします。


オレゴン州96mのダグラスファーにクライミングするジョンギャスライト

●7月28日:チャンピオンシップ見学

この日はジョンさんに加えて、ツリークライミングインターナショナル校長であるピーター・ジェイキンス さんとともに行動しました。
78回目のInternational Society of Arboriculture(以下ISA)のツリークライミングチャンピオンシップ 大会会場(ボランティアパーク)に行き、世界レベルのクライミング技術を見学しました。樹高40m はあるナラの木で男性が、樹高30mほどのブナの木で女性がその妙技を競いました。

大きく樹冠を広げた広葉樹の上や横、様々な枝先に5つのチェックポイントであるベルが設置されています。 それをクライミング技術を駆使して安全性、作業性、スピードなどの総合評価して優勝者が決まります。 男性はドイツのバーンさんが、女性は中国系カナダ人の方が優勝されました。優勝者は皆、電話帳に優勝者で あることを広告として掲載するそうです。


今年の女性優勝者 カナダ人ツリークライマー 決勝戦の模様

男性の優勝者はシングルハンドで約40mほどの高さにまでスローラインをかけます。樹上での動きはまるで スパイダーマンそのもの、私も安田さんもただただ唖然とした次第です。


男性の部の決勝戦の模様

その夜の2000人規模のパーティが開催され、ジョンさんはピーターさんとともに優勝者や展示出展者などと 交流を深めました。ちなみに、川尻は体調を崩し、パーティに参加せず、ホテルで寝ていました。

●7月29~30日:国際会議での発表・実演・展示見学


ISAツリークライミングチャンピオンシップのオープニングセレモニー

この二日間は朝から夜まで、ピ-タ-さんとともにISA会場でクライミング技術やレスキュー方法、枝の切り方 など多岐にわたる講義と実演を見学。また、ジョンさんは各技術者と技術レベルのディスカッションをしながら、 TCJの将来構想を練っていました。また、休憩時間にはTCJが今後優遇措置を受けられるようにと、商談に 奮戦されました。
この会場での講義は筆舌できないほどすばらしく、今後のステップアップ講座やツリークライマー試験で紹介 できればと考えています。


ISAのメンバーによるクライミング技術やレスキュー方法、枝の切り方などの実演

●7月31~8月1日:移動及びニュートライブでのクライミング準備

この二日間はレンタカーでの移動(800km)と、ダグラスファーへのクライミング準備に充てました。 シアトルからI5(アイ・ファイブ)でオレゴン南部のグランツパスを目指して南下し、1200m級の山々に 囲まれたリバーバンクスロード沿いのニュートライブでクライミングの準備。

ニュートライブの庭には50~60m級のシュガーパインやダグラスファーなどが林立し、野生のシカやコヨーテ、 七面鳥も近くで見られます。木造二階建ての作業場はアットホームな雰囲気があり、クライミングギア制作、 出荷のための部屋以外に、薪ストーブを囲むリビングやキッチン、お風呂、ゲスト用ベッドルームなどが完備され、 最高の雰囲気でした。

また、この日はジョンさんのグローニングチェア(グッドデザイン賞受賞)の制作仲間であるリチャードさん宅を 訪れました。生きた木でできた窓枠や橋、水道管、生きた椅子などが庭に作られ、他にもちょっとしたバスフィッシング のできそうな池、リチャードさんが2年間かけて枯れ木のみで作ったログハウスなど、何ともすばらしい感動を覚えました。 ここでもリチャードさんと友人であるジョンさんのお陰で貴重な体験ができました。

●8月2~3日:世界第二位のダグラスファーへの挑戦

この日はニュートライブのバイオラさん、ラッセルさんとともに、ローズバーグ近郊のBear Mt.(クマ山)山麓へ 3時間ほどかけて移動。途中で山林を所有する会社から調査を依頼されたスコットさんと合流し、ダグラスファー 目指して林道をひた走る。

車を降りて、ザックに食料、水、寝袋、マット、ツリーボート、サドル、ロープ等を入れ、森を歩く。周りは 80m以上のダグラスファーやシーダーの森、これがオールドグロス(原生林)なのだ!枝からは日本で言う「サルオガセ」 が所狭しと垂れ下がり、まさにクマのメッカにふさわしい森でした。

現場でスコットさんが狩猟用の弓矢を取り出し、樹高約100mを目指して弓を引き、双眼鏡で確認しながら 200mのスタティックロープを設置し、リードクライマーとして梢端を目指しました。その後、レスキューなど スコットさんの補佐をできるジョンさんセカンドクライマーとしてクライムアップし、調査の手助けをされました。

続いて、バイオラ、アンさん、ジリ、ラッセルがクライムアップし、恐怖におののきながらも、ジョンさんの 励ましのもと地上約84mポイントまでクライミングさせてもらいました。

・・・・この高さは正直、「登った」 と言うより、「登らせてもらった」と言う感想です。このすばらしい体験も、この世のものではありませんでしたので、 言葉では表現できません。

クライムダウンが大変です。レスキューできるようジョンさんと、最終回収のためにバイオラさんが残り、 『金魚のふん』二人がクライムダウンします。

この夜は吐く息が白くなるほど寒く、森のツリーボートで震えながら一夜を過ごしました。とは言っても夜中に 忍び寄ってきたクーガーにも気がつかないほど爆睡していたアンさんとジリでした。

●8月4日:ワイルドツリークライム

この日はグランツパス周辺の山々が山火事で、避難勧告が出され至る所で消防や軍隊が出動していました。 70m級のシュガーパインに登りに行こうとしましたが、軍隊に行く手を阻まれ急遽予定変更。

ワイルドツリーを求めてドライブの末、クライミング可能な70m級のダグラスファー発見。ジョンさんが リードクライマーとして慎重にコース設定してくださったところを、ジリ、アンさんの順にクライムアップして、 今後の講習で紹介すべき腐朽状況やキノコの発生状況を調査しました。

●8月5~6日:帰路

グランツパスからメッドフォード空港にレンタカーで移動し、ここからシアトルへ、次にバンクーバーへ、 次に名古屋国際空港へと飛行機を乗り継いだのです。

当初は、ジョンさん演じる水戸黄門のスケさん・カクさんのつもりで同伴した二人でしたが、終始ジョンさんに お世話になる『金魚のふん』状態でした。

今回の渡米はピーターさんとの出会い、ジョンさんの友人たちとの出会い、ISAの大会参加、新技術の勉強など、 色々と多くを学べる体験でありました。特に、樹高96mのダグラスファーは調査目的以外ではクライミングは許可 されず、そうした貴重な時間にタイムリーに居合わせた幸運と、ジョンさんやジョンさんの友人の導きに深く感謝した 次第です。
是非、この後続く皆さんにこうした貴重な体験をしていただき、『森の伝道師、ツリークライマー』が一人でも多く 育つことを願って、珍道中記を記しました。詳しくは今後講習会などでお伝えしますので、ご期待下さい。

TCJディレクター 川尻秀樹