2011年ISA(International Society of Arboriculture)の年次大会とツリークライミング®チャンピオンシップ
2011年ISA(International Society of Arboriculture)の年次大会とツリークライミング®チャンピオンシップに参加報告第2弾、今回は予選の模様を報告します。
(1)出国からギアインスペクション完了まで
ISAの年次大会はツリー・アカデミー・ワークショップとツリークライミング®チャンピオンシップに二本立てで開催されます。これまで北米地域でのみ開催されてきた大会ですが、今回初めてオーストラリアで世界大会が開催され、日本から久保田選手がチャンピオンシップに参加するとともに、ジョンさんが理事会メンバーと会議をされました。
今回渡航したのはジョンさん、久保田さん(選手)、長野の松岡さん(選手控え)、山梨の安藤さん(サポートスタッフ)、そして毎回金魚の糞状態のジリさんです。
さてさて、出国に先立ち、シドニーの天気が不安です。何でも南部地域では想定外の冬の雨によって洪水が発生しているとのこと。ジョンさんは早速、空港のインターネットつかって現地情報を検索。
さて、シドニーの空港に朝6時頃到着し、バゲッジ・クレイムで長引いた安藤さんのゲート到着を待ち、ジョンさんの機転で朝のラッシュアワーを避けるよう、ワーゲンのリムジンをつかって眠い体を引きずって大会会場に急ぎます。
空港から約一時間、少々迷いながらもようやく会場に到着すると、すぐに久保田さんは選手として、ギアインスペクションを受けなければなりません。
すでに全世界から多くの選手が到着し、ギアをチェックしてもらうために順番にテーブルに広げています。この会場へは一般人は立ち入りできません。参加選手とそのサポートスタッフのみです。金魚の糞はなんとか紛れ込みました。
さて久保田さんはゼッケン61番、ギアをテーブルに並べて審査を待ちます。道具はすべて入念にチェックされ、かつ使用目的まで詳しく聞かれます。聞かれた場合は当然のことながら、ジョンさんが答えていました。
ここで大問題です。久保田さんがランヤードにつけてきたスナップが2ステップであるので、回転して外れる恐れがあるとクレームが付きました。OH MY GOD!
なんで、なんで、他にもOKのひといるやんけ!しかし審判には逆らえないので泣き寝入り。今後世界を目指すみなさん、こういった細かい点にも気をつけて、しっかりした高価な道具を揃えないと出場できないよ。
ギアインスペクションが終了すると、その道具と本人確認の写真撮影がなされます。この写真に写っているもの以外のギアは使えません。久保田さんは心持ち緊張した雰囲気(当たり前か?)
次は、仕切られた秘密の部屋で、エアリアルレスキューで使用するシステムを実際に作成して申告します。この時、危険なシステムであったり、使用するのに適さないギアがあったりすれば、改善が求められます。 本番のエアリアルレスキューで他の方法に変える場合は、再度事前申告が必要となります。
さあ長時間にわたる審査が終了しましたが、あいにくの雨のため予選は明日に延期されました。ホテルまでは歩いて向かいます。公園の端でふと上空を見上げると、枝先に何かがたくさんぶら下がっています。
そう体長が50cmほどのフルーツバットの群れです。
「明日はコウモリと一緒にツリークライミングか?」と感じつつ、ホテルまでの道のりを5人で歩いて(厳密にはデンマークの人もいたから6人で)向かったのです。
(2)いよいよ予選だ!! 久保田選手頑張ったよ!
ISAの年次大会でのツリークライミング®チャンピオンシップ、本来ならばギアインスペクションのあった一日目に予選の半分が消化されるはずが、今回は南半球の珍しい冬の大雨により、二日目に延期。
アナウンスでは二日目に、予選の半分を、そして三日目のマスターズチャレンジの前に予選後半戦を実施すると言われました。
しかし、いざ二日目になると、知らぬうちに本日中に予選を終わってしまおうという、暗黙の了解の中チャレンジが進行しました。
ホテルを出たのは、まだ夜も明けぬ午前6時前、薄暗い町中をタクシーに乗って会場まで急ぎます。夜はまだ明けず、薄暗い中、せっせと出場準備をします。
少しすると、フルーツバットが空を飛び、けたたましく鳴き始めました。
余計な話かもしれませんが、私はこの日は一日中、久保田さんのかばん持ち兼タイムキーパーとして働きました。もちろんジョンさんは久保田さんがスムーズに参加できるよう、審判団に通訳し、安藤さんや松岡さんも、一生懸命記録をとりました。
《予選1 スローライン》
最初はスローラインです。さすがの久保田さんも、顔は緊張気味。しかし、自分ならば「心臓が口から飛び出そうだろうな」と思い、声を掛けてみるが「反応がない」聞こえているのか?
緊張さえしていなければ、久保田さんはもともとスローライン能力が高い人ですので、安心してみていられます。
見ている方が緊張する第一投、なな、なんと、記念すべき第一投でセカンドポジションをキープです。これは凄い。それも抜群の形で、早速ロープセットして、ロープ両端をグラウンドに着けて「キープ」したことを伝えます。
続いて、第二投。これまた一発でサードポジションをキープです。多くの選手が枝を交わすのに苦労する中、久保田さんは余裕で2本目のロープセット完了。スローラインは得点19.0、これは高得点です。
私には樹上で、故加藤安雄さんがほほえんでいたような気がしました。一仕事終えた久保田さんに聞くと、やはり「加藤さんが来てくれました」の一言。
「やっぱり仲間が来てくれるよね」と二人で納得したのです。
《予選2 セキュアード・フットロック》
この競技は久保田さんいとって、最大の課題でした。日本におけるチャンピオンシップで総合的に優っていましたが、このフットロックに時間がかかりすぎたため、渡航の条件が付けられました。
その条件は「一ヶ月以内に15mフットロックを60秒以内とすること」でした。勤め人である久保田さんがこの条件をクリアするのは、環境的にも、年齢的にもほとんど無理に近い状態。
それを多くのJAA仲間が支え、本人も並々ならぬ努力の結果、クリアしてこの場に立っているのです。
自分の待ち時間を過ごす間、多くの選手たちの時間を見ると、上位選手はほとんどが15mを17秒代、信じられない早さです。
さて、久保田さんの出番です。心配事はグラウンドが濡れており、靴がスリップすることです。
体にはフォレストG・森田さんのハーネスが、そして晃くんや宇治やんたちの教えが、お守りのように彼を支えています。到達地点にはレモンかぁちゃんも待ってるぜ!Go!
久保田さんがクライミングしている間、アメリカのウエスタン地区女性チャンピオンのロンダ・ウッドさんも「ひこ、がんばれ」と声援してくれました。
久保田さん、日本で私が見た姿とは別人、やはり森田さんたちが下から押し上げているように思えるほど順調にクライミングします。
セキュアード・フォットロックの結果は37秒なのに、獲得点数は0点です。 実はこの競技は30秒以内に15m到達しないと0点です。
しかし、ジョンさんを始め私たちだけが、久保田さんの記録に大はしゃぎ、そこでジョンさんが審判に久保田さんの年齢を告げると、「それはスゴイ。40代で60秒を切れるならば、その方がスゴイ!」と返してくれました。
二種目終わったところで、昼食タイム。選手に配られる昼食はサンドウィッチ、チョコレートバー、果物、コーヒーです。
久保田さんはこれで腹ごしらえして、残りの三種目に臨みます。
《予選3 エアリアル・レスキュー》
さて、エアリアル・レスキューは安全第一で、時間と技の勝負。しかしここで大問題が、そう「言葉の壁」です。
前日に申請したレスキュー方法をつかなければなりませんが、その前に状況確認の言葉が・・・そこで、ジョンさんが登場です。つまり負傷者の現状確認、周辺の電線や樹木の状態をジョンさんが通訳して、審判に伝えます。
今回の負傷者は糖尿病の人でもあります。みなさんならどうします。現時点で低血糖に陥っています。・・・正解は多くの選手がジュースを持参しました。
時間を測定しながらポイントごとの動作をアドバイスしますが、本人はジョンさんの通訳も、下からのアドバイスを聞き分ける余裕も無くなる。まっ、当然かも?
途中で、ロンダ・ウッドさんのご主人が私に「あのロープをクリアしろと日本語で伝えてやれ」とアドバイスをもらい。必死に声をかました。
レスキューの結果は12.67点。全5種目のうち単独でビリだったのはこの競技のみ。それを思えば、「たいしたもんだよ、とうちゃん」と労をねぎらったのでした。
《予選4 ビレイド・スピードクライム》
これまた日本ではほとんど練習をすることがない競技、握力、腕力、脚力の三拍子がそろわないとできません。対象となったレモンユーカリは幹が滑りやすいため、幹にロープが巻いてあります。これをつかんでクライミングします。
さすがに疲れの目立ち始めた久保田さん、半分すぎたところでペースダウン、最後までよく頑張り時間は1分少々、スピードクライム獲得点数は1.52点でした。
《予選5 ワーククライム》
さて、いよいよ最後のワーククライム、この競技では得点を得られなかった、つまり0点の選手も2人出るほど、厳しい戦いです。
最初に樹上にあがって待機し、樹上から、(1)Hand saw、(2)Limb toss、(3)Pole pruner、(4)Limb walk、(5)Landing の5つのワークステーションをこなします。
樹上にあがったら、靴が滑らないように念入りに靴底を拭き取り、待機します。スタートのタイミングは選手がベルをなすところから始まります。久保田さんのコース取りは、Hand saw、Pole pruner、Limb toss、Limb walk、Landingの順。
途中、久保田さんがリム・トスステーションを見失う。すかさず「右前方」と声を掛け、軌道修正。がんばれがんばれ。
なんとリム・トスは二回目で「in」・・・すごいぞ!
なかなか順調だが、時間が刻一刻と迫る。私が、「あと90秒」のコールをするとタイムキーパーの審判が近づいてきて、「おまえのタイムを見せろ」という。見せると「正しい」とだけ言って、競技を見守りに行ってしまった。
結局、最後のランディングを残して、タイムアウト。でも相当な物です。
ワーククライムは17.00点獲得でした。
合計50.19点、ちなみにデンマークチャンピオンは50.48、久保田さんの後にはアメリカのユタ州チャンピオンが位置していました。
凄いよ!これは!・・・本当にえらいよ、とうちゃん!
(3)ISA世界大会報告
さて、大会の開催されたパラマッタ市の公園、大会3日目には会場を大会本部のあるホテル前の公園に移して、上位選手によるマスターズチャレンジが開催されます。また会場周辺ではクライマーズコーナーやセッションが随時開催、機械展や見本市も並びます。
前日の予選で、男性は1位Scott Forrest(New Zealand)、2位Jared Abrojena(US-Western-NATCC)、3位Joe Harris(Australia)、4位Johan Gustavsson(Sweden)、5位Jonathon Turnbull(UK)。
女性は1位Chrissy Spence(New Zealand)、2位Kiah Martin(Australia-Asia Pac)、3位Jessica Knot(Australia)が発表され、彼らが競い合います。
共に目指すのは「チャンピオン」のみ
さて、写真では迫力を伝えられないのが残念です。選手はみな超人クラス、どうしてあの枝を渡っていけるのか不思議です。訓練だけでない天性の感覚とバランスが要求されます。
マスターズの採点中、会場では今回初めての試みが実施されました。それはHead to Headでのクライミングです。しかも道具やスタイルは様々、合図と共に準備にかかって、樹上15mのベルを鳴らしに向かいます。様々な新器具も登場し、その性能評価もかねます。
しかし、最後までDRTのボディスラストでクライミングした人には、タイムに関係なく、大きな拍手が送られていました。
さて、マスターズの集計も終了し、発表会です。毎回ながら、この大会に協力してくれたスタッフ全員の名が呼ばれ、特に大会の審判団は大きくその栄誉を称えられます。
そのあと、大会優勝者の発表です。女性は予選同様Chrissy Spence(New Zealand)、男性も予選同様Scott Forrest(New Zealand)と、New Zealandの選手が獲得しました。
夜には大会レセプションが開催されました。アボリジニーによるディジュリドゥ(Didgeridoo, Didjeridu)演奏。この楽器は木管にして金管楽器に分類され、ユーカリの木をシロアリが穴を開けたものです。奏者の右側にいるのは、オーストラリアの理事長ロバート・サットン氏です。かれは以前ツリートークでも紹介した樹木保安官のような仕事をしています。
写真で注目して欲しいのは、会場に立ち並べられた各国の国旗、なんと日本はステージ中央に位置しています。
さすがISAにおけるジョンさんの評価の高さ。びっくりです。
セレモニーが終わって皆が精神を落ち着かせてから、全世界のISA役員理事が並びました。
さて、4日目に突入、今日は自分たちの勉強と商品定めに没頭です。クライマーズコーナーに参加し、クライマーが注意すべき電気関係、リギング方法、腐朽部診断方法などについて学びました。こうした講習会では継続研修(CEU)が付与されるので、ISA本部に受講完了申請することができます。
マスターズチャレンジも勉強会も終了して一段落、さっそくホテル近くの路上レストランで祝杯?
せっかくオーストラリアまで来たのだからと、何故かイタリア料理店で食事。
豪華な食事でこれ以上お見せできません。残念!!
帰りの飛行機、みんなお疲れ! そこでジョンさんから思いもしないプレゼントが、なんとビジネスクラスで、超リラックス!
本当に夢のような時間を過ごさせて頂きました。
さて、2011年のISAツリークライミングチャンピオンシップ報告、今回で最終回です。
何度か参加させていただき分かってきたことは、TCJは着実に前に進んでおり、かつISAにおけるジョンさんの存在は偉大なるものであること。今回の参加に当たっては、日本大会や久保田さんのトレーニングを支えてくれた仲間、そして多くの家族たち、様々な人々のおかげで成功したことは間違いありません。
どうかみなさんも私と供に、明るく楽しい未来に向かって進み出しましょう。
レポート 副代表 川尻秀樹