カシノナガキクイムシの穿孔によって枯死したコナラの特殊伐採

~ GRCSとポータラップによるリギング技術研修 ~

はじめに
2010年6月5~6日の2日間、ジョンギャスライト(ISAリエゾン・認定アーボリスト ML-0326A)の率いるATT(Arborist Training Team)トレーナーとそのトレーナーのもとで補佐するリギング経験者が今後の指導方法及び最新機械の操作を学ぶことを主目的に開催されました。
近年、ミズナラやコナラなどのブナ科の樹木を枯損に追い込んでいるカシノナガキクイムシ( Platypus quercivorus MURAYAMA )によって枯らされた立木の安全な伐採 技術(大枝下ろし:リギング)ついて紹介します。

カシノナガキクイムシの穿孔穴に楊枝を挿した写真
リギング風景

1.カシノナガキクイムシとは
カシノナガキクイムシはコウチュウ目ナガキクイムシ科の昆虫で、成虫の体長は4~5mmの円筒状、雌の前胸背板には共生菌を貯蔵する器官(マイカンギア)があります。
この昆虫は本州、四国、九州、沖縄に分布し、一夫一妻性で親が子どもの世話をする家族生活を営んでいます。繁殖期を迎えた雄成虫は午前中に繁殖場所から脱出して飛翔し、繁殖場所にふさわしい樹木を見つけて幹に穴(孔)を開けます。
この孔を開ける時の木屑と集合フェロモンに誘引された雄が次々に飛来して集合フェロモンを発散するため、多くの雌雄成虫が飛来して幹に多数の孔を掘る集中加害が引き起こされます。集中加害は気温20℃以上で、日差しがある2つの条件が揃う午前中に発生します。
雌が飛翔して来ると雄は孔から出て来て交尾し、その後に雌と一緒に孔の中に戻って、雌が持参したラファエレア菌(アンブロシア菌)を培養して酵母を食料とします。

2.どうして木が枯れるのか?原因はラファエレア菌
キクイムシは名前の通り、木材や内樹皮を食べる種類が多く、他にもドングリなど種子を食べるものや菌類を培養して食料とする種類がいます。
カシノナガキクイムシは「養菌性キクイムシ」と呼ばれ、樹木の木部に孔道(トンネル)を掘って、孔道壁面で栽培して酵母を摂食します。
カシノナガキクイムシが培養する菌はラファエレア菌(Raffaelea またはナラ菌と呼ばれ、雌が運ぶこの菌が繁殖すると辺材部で通水機能が低下して樹木が枯死します。

3.カシノナガキクイムシの生態
昆虫の多くは卵を産む親と、卵から孵った子供が同居することは殆どありません。しかしキクイムシは人間と同様に一夫一妻制や一夫多妻制などの結婚生活を営み、子育てをします。
この世代交代(繁殖)に成功した集団が加害した樹木は、夏に水分不足で枯損します。仮にカシノナガキクイムシに侵されても、繁殖に成功しなければその樹木は枯れません。
このカシノナガキクイムシに対する予防および駆除手法として1)ケルスケットなど殺菌剤を樹幹注入する方法、2)殺虫剤と粘着剤の混合液を樹幹に散布する方法、3)ビニールシートで幹を皮膜する方法、4)NCSくん蒸剤処理、5)伐倒粉砕処理などがあります。

木材内部に生息するカシノナガキクイムシ
木部から発生した成虫

4.伐倒して薪にすること
 枯死した個体からは翌年の6~7月に大量のカシノナガキクイムシが脱出して、周辺の樹木を侵します。胸高直径30cm、樹高15mのミズナラの場合、1本の枯死木から2万匹の成虫が脱出し、これらが10本の枯死木を発生させると考えられています。
森林内や伐採した現場にカシノナガキクイムシしか存在しないのであれば、殺菌剤注入や殺虫剤散布、NCSくん蒸剤処理有効かもしれません。しかし一方的に薬剤処理したり、環境に良くない処理をしたりするよりも、効果が少なくても少しでもカシノナガキクイムシの生息密度を低下させることが重要と考えます。
そこで、カシノナガキクイムシが幼虫である状態の時、枯死木を伐採して薪状に割材することにより、ラファエレア菌の増殖を抑えて幼虫が死んで行くと同時に、周辺のアリ(蟻)類による食餌行動による駆除を実施しました。
なお、この方法であれば、割材した木材を「薪材」として有効利用することが出来ます。

カシノナガキクイムシの説明を聞く参加者

5.GRCSとポータラップによるリギング技術研修
 最初にジョンさんから特殊伐採に於けるリギング時に立てるべき地上計画、樹上計画の進め方について説明を受け、樹上の動きと地上の動きのイメージトレーニングをしました。
特に、海外では電線などへの配慮が重視されます。

計画の立て方を説明するジョンさん

5.1 最初に樹上のトップに登る人が大変
最初に枯死木に文吾林造園の熊ちゃんがリギングブロックの設置、リギングロープ、タグラインの設定を行いました。この時に電気配線や周辺の樹上アンカーとして利用可能な樹木との位置関係を充分把握する必要があります。
特に、リギングブロックの設置位置、切り落とす枝の大きさなどの計算が重要なポイントとなります。

リギングブロックを設置する熊ちゃん

リギングは樹上で作業をする熊ちゃんの指示によって進むのが基本ルールです。地上で大枝下ろしをサポートするグラウンドワーカーは、熊ちゃんの合図に呼応してポータラップへの巻き付け回数などを決定します。
このグラウンドワーカーは樹上から下ろされる大枝をゆっくり下ろすことが重要ではなく、ある程度の高さまでは早くスムーズに下ろす必要があります。

ジョンさんのアドバイスを受けながらポータラップを操作する。

5.2 二番手はトレーナーでもある信原さん
樹上操作二人目はATTトレーナーでもあるグリーンメンテナンスの信原さんです。普段から仕事でリギングを実践されているため、スパイクシューズの操作やワイヤーランヤード操作、チェンソー操作も手慣れたものです。
リギングには枝を目的の方向に折り曲げるGRCSと誘導のためのタグライン、そして安全に下ろすためのポータラップ操作が重要です。
GRCSの巻き上げ量とスピードは樹上で作業する人の指示で決めます。重要なのはGRCSを単に巻き上げるだけでは枝切断後に、切断した枝が樹上作業者に向かってくることもあるので、巻き上げと同時に素早く下ろす技術が要求されます。
ちなみにGRCSは少しの力で何百キロもある荷物を吊り上げることもできますが、ポータラップと同じように荷物を下ろすことにも利用できる優れものです。

切断した枝は信原さんの足元にあるリギングブロックを支点として下ろされる
切断した枝や幹を目的の方向に折り曲げるためにしようされるGRCS

リギングには通常のポータラップ、GRCSだけでなく、新型の3000kg対応できるStein RC3001も利用しました。こちらについてはATTトレーナーである森田さんが操作しました。日頃からリギングに手慣れているため、スムーズな荷下ろしができました。

大枝を下ろし操作する森田さん

枝部分がすべて下ろされ、幹部分になると、一玉の重量が100kg程度になるような位置で断幹します。この時、倒す方向を補助するタグラインの操作、リギングロープの締め上げ、リギングブロックの位置と伐倒方向の確認をすることが重要となります。
幹の直径が太くなり、チェンソーのガイドバーが45cmでは届かないほどの大きさとなってきました。

スパイクに体重を乗せて断幹する信原さん
グラウンドでリギングロープ操作する女性ツリーワーカー®の美菜ちゃん

薄暗くなっても大型チェンーで断幹を続ける信原さん。彼が下ろした幹は地上で4分割して、今回の研修仲間が林外に運搬します。

そろそろ切れ味の落ちてきたチェンソー操作に苦慮する信原さん

おわりに
今回の研修の目的は、第一にATTメンバーの技術向上と新型ギアの操作研修、第二にプロの皆さんに技術指導する上での共通の注意事項の再確認、最後に近年問題となりつつあるカシノナガキクイムシについての知識習得でした。
リギング技術は大変危険な作業で、見様見真似で操作すると事故の元でもあります。必ず、ATTメンバーのような熟練者から的確な技術を学び、何度も繰り返し練習することが重要と考えます。

また、カシノナガキクイムシ被害木は、伐採してNCS燻蒸剤処理するのが一般的ですが、今回の伐倒木はすべて割材して薪に利用しました。キクイムシがサナギになる前に、割材すると木材が乾燥して幼虫のある程度が死んでしまいます。また、割材して積み上げると、どこからともなく何種類かのアリ(蟻)が寄ってきて幼虫を補食してしまいます。
割材はカシノナガキクイムシの完全防除には至りませんが、環境に対する影響は低く、かつ薪材として有効利用で木など、それなりの利点があります。

自然界ではキクイムシは衰弱木を早く枯死させたり、腐りにくい材部を分解してくれたり、物質循環を促進するという重要な役割を担っているのですが、単に密度が高くなり過ぎたのが問題のようにも考えます。
循環型社会が提唱される昨今、カシノナガキクイムシだけが悪者のように捉えられるような考え方では、新しい時代は見えてこない気(木)がします。

副代表 川尻秀樹