オーストラリアでのツリークライミング事情(2)

Director川尻秀樹 レポート

【10月1日】

今日は2005年オーストラリア・ツリークライミング・チャンピオンシップが開催されます。朝から選手や関係者が会場となるタスマニア島のLaunceston(ローンセストン)のシティー・パークに集まってきます。

大会本部はこの日に合わせて、6日前から現場準備をしたそうで、大会に先駆けて参加者や審判毎に分かれて記念撮影をしました。

 

オーストラリアン ツリークライミング チャンピオンシップの横断幕

 

参加者はドイツや南アフリカからの人もいる。後ろの車は救急車。

 

かつてのチャンピオンや現役を退いたベテランが審判を務める。

オーストラリアでの競技は、自分の技術を駆使しインスペクションされたギアを使用し、多岐にわたる種目に分かれていました。
参加者は、27人の男性と5人の女性が予選を行いマスターズ大会参加者を選抜します。
参加者全員が全身用のボディーハーネス(全身安全帯)を装着して、男性は15mの高さまで、女性は12mの高さまで足と腕の力だけでクライミングします。

 

背中に固定されたロープが下降時のビレイロープ

 

参加者のビレイの固定が充分か、
服装などもOKか審判が確認する

審判の審査準備が出来ると、いよいよ競技です。

 

相当なスピードでクライミングする

 

樹の上の方にクライミングする小さな人がわかるでしょうか

この競技での優勝者は、ISAディレクターのMr. Hugh Taylorさんの予想通り、実力者Thomas Greenwoodさんが優勝を獲得しました。
前日のお会いしたロープメーカーのYALE社のナンバー・1・スプライサーScott Sharpeさんは第二位でした。
なお、男性参加者27人中7人は0点、女性参加者5人中2人が0点でした。

【オーストラリア・ツリークライミング・チャンピオンシップ】

 チャンピオンシップには、各地区のチャンピオン男性27 名、女性参加者5名が参加しました。以下に、その競技種目のうちでも、私が個人的に目を見張ったレスキューとワーククライムの一部を紹介します。
1.レスキュー
 レスキューでは訓練用の人形が樹上にセットされており、 それを救助すべき対象者として、如何に冷静に、素早く、安全に救助できたが競われます。
私が見学していたScott Sharpeさん(本稿の-1に紹介済みのARBORISTで、YALE社のNo1スプライサー)は、見事な救助活動を見せてくれました。
特に、TCJのツリークライマー以上でお伝えしているレディレクトが完璧でした。
幹の中央にいるのがScottさん、右側に審判とレスキュー人形
レスキュー人形を確保したScottさん
レスキュー人形を確保したScottさんと地上の審判
2.ワーククライム


 ワーククライムは5つの設定された課題をクリアするもので、本場のプロの技が随所に見られました。各自が自分のサドル、ロープを使って課題をクリアしました。

樹上から左中央下まで競技者がリムウォークしている様子
作業さながらにワーククライムする競技者


3.すばらしい女性参加者
今回のチャンピオンシップでは、大変すばらしい二人の女性との出会いがありました。
一人はAlison Jasperという女性参加者で、何と彼女はチャレンジャーでした。彼女の夢は「世界中を旅しながら歌を歌うことでしたが、筋ジストロフィーに冒され、心機一転、最も重労働で危険なARBORISTの道で生きよう。」と決心して仕事をしているとのこと。
病気の進行は年々著しく、「最近では手が震えてペンで名前も書けない。」と語ってくれました。ジョンさんとともに一緒に食事に行ったときも、震える手で私たちに細やかな気を遣ってくれたりして感動しました。
順位こそ最下位でしたが、ジョンさんも私も心から彼女に拍手をおくりました

競技会場を移動するAlisonさん

もう一人はCherrie Nealeという女性参加者です。彼女はチャンピオンシップで最高得点をあげ、優勝目前でタイトルを失いました。理由はクライミングが終了しようとクリーンナップする最終段階で、なんとスローラインを押さえていた手が滑り、リングセーバーを地面に落とし、獲得点数が一瞬に無くなってしまったのです。

スズカケノキの細い枝をリムウォークするCherrieさん
Cherrieさんのことを協議する審判団(左側)

 つまり、クライミング技術は最高レベルでも、道具の取り扱いも一流でなければ、チャンピオンの資格がないと言うわけです。
審判団による協議の後、反省して涙を流す彼女の姿に、見ていたジョンさんや私も熱いものが込み上げてきました。一緒に食事したときには、「自分が未熟だからこそチャンピオンシップに参加できたことに誇りを感じる。」と語ってくれました。