マテック博士初来日講演会
樹木からのメッセージに耳を傾けよう
さる2003年5月27日に、東京ビックサイトにて危険木判定の世界第一人者である ドイツのマテック博士(Dr. Claus Mattheck)が『樹木からのメッセージに耳を傾けよう』という講演会のため初来日されました。
かねてよりマテックさんとEメールのやりとりをしていたツリークライミングジャパン代表ジョンさんとともに東京へ出かけ、 約4時間に及ぶ講演を拝聴してきましたので報告します。
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ドイツのマテック(Claus Mattheck)教授らはVisual Tree Assessment法(通称VTA法)を確立し、Resistograph等の調査機器で内部腐朽度を計測し、 一定率まで腐朽が進行したものを危険とする街路樹の倒木危険度を判定できるようにしました。
マテック教授の著書『STUPSI』(翻訳本もあります。かつてツリークライミングジャパンでも頒価していました)は、 樹木の見方を大きく塗りかえてしまうほど画期的な翻訳書です。カールスルーエ研究センターで進められた研究に基づくもので、 枝の分岐や根の支持強度、キズの閉塞、その他の樹木学的研究によって樹木力学の専門家として世界的に知られるようになりました。
彼は長い間認識されていなかった樹木特性の全体的な連続性を発見し、それを彼の言い回し・知識・観察を、 マテックスタイルとでも呼ぶべき簡潔さで描写する能力によって、樹木の構造と弱さの両方に光を当て、魅力的でわかりやすい本を作り上げました。 この本によって私たちは、樹木の生態学的な理解や生理学的な理解を超えた、力学的理解を得やすくなりました。
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講演の中では、樹木の外形で内部の裂け目の進行具合を推定する指針として、『ピノキオの鼻』と『ブルドックの鼻』という面白い表現で、内部の裂け目が進行しているかどうかを判定する手法
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左:ピノキオの鼻 裂け目がまだ成長しており危険。
右:ブルドックの鼻 裂け目が安定している
幹にできた裂け目の巻き込み(カルスの成長)を、通称『羊の角』と呼び、強度が2~3倍になることなどが講義されました。
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また講演の中では、枝が上から下まで万遍なくついている樹木と、枝下高が高い(良く枝打ちされた)樹木を比較し、低いところまで枝があると、幹全体に栄養が行き渡りドッシリした安定した樹木になる。これに対し、樹冠が高いと、栄養分が下方まで降りてくる量が少なく、細長い樹木になり、風などで折れやすくなると言われました。
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マテック博士のVisual Tree Assessment法はドイツだけでなく、フランスなどでも広く認められ、人身事故などの法廷証明などでも、新聞を賑わしたほどです。
マテック博士のResistographによる内部腐朽度を計測は、外観では判らない木材の強度を数値的に立証するもので、レジストグラフという機械で測定します。
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菌類が繊維を侵すために幹組織が象の足のようになる話や、腐朽の進行方向と木材強度、 キノコの生え方と木材の履歴など、多種多様な講演内容でした。
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日本で翻訳され出版された著書に、C.mattheck『シュトゥプシの樹木入門』(日本樹木医会)、C.mattheck・H.Kubler 『材~樹木のかたちの謎~』(青空計画研究所)等があります。
最後にジョンさんは、マテックさんと再会の約束をして会場を後にしたのです。
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TCJディレクター(副代表) 川尻秀樹