古都の松緑復活プロジェクト
京都府の西山丘陵に位置する嵐山峡(らんざんきょう)は、平安京草創の時代から景勝がうたわれ、平安京に遷都した桓武天皇(781~806年在位)も、しばしば行幸されました。
嵐山峡の美しさはアカマツやサクラ、カエデ類による四季折々の変化に富む「嵐山」、清流をたたえる「桂川」、優雅な姿の「渡月橋」による三位一体の調和美で、年間一千万人の観光客が訪れます。今ではあまり知られていないことですが、嵐山にある約60haの国有林は十三世紀に吉野のヤマザクラを移植した人工林です。明治以降は名勝地に指定され、文化庁等の様々な法規制のため人工林が植生遷移によって天然林化したのです。近年はシカなどが下層植生や稚樹を食い荒らし、アカマツはマツクイムシ(マツ材線虫病)で枯損が進行し、渡月橋から見る嵐山には僅か一本のアカマツしか確認できないようになってしまいました。
これに対して地元の「嵐山保勝会」と森林管理事務所が連携して昭和五十七年からサクラ、カエデ、マツ材線虫病抵抗性マツの植栽を進めてきました。しかし国が選抜育種した抵抗性マツは真っすぐな樹形が多いため、「京都には京都の景観や庭園、環境に適したアカマツを植えるべきではないか?」という意見が出て、京都独自の抵抗性マツの開発をすることとなりました。
そこで京都大学や京都嵯峨芸術大学、森林総合研究所、林木育種センター、森林管理所などがメンバーとなって「古都のマツ緑復活プロジェクト」が発足し、座長の真板昭夫教授や森林管理所の村上幸一郎所長の招きで京都に行ったのです。
しかし、現場に行ってビックリです。山の斜面角度は約45度の急傾斜、しかもアカマツは川側に傾いて斜立しており、樹上のアンカーポイント付近での体感高度は約60m、まるで桂川の上にクライミングしているような錯覚を起こします。加えて周辺の広葉樹類が邪魔をして簡単にはセットアップできません。
樹上でジョンさんが確認すると樹冠の上部の方は枝が枯れたところや腐朽部も確認されました。それにもまして、風が吹きつけると微妙に揺れて恐怖感をあおります。
このマツの樹上30m付近で、接ぎ木用の接ぎ穂を採取し、ネットで回収してバックに集積し、そのバックをスローラインで村上所長の手元に届けるのです。ジョンさんが枝の先端にリム・ウォークして高枝切りバサミで枝を採取し、竿は長さ6mのネットに納めます
採取したアカマツの枝は林木育種場関西支所の専門官が接ぎ穂としての良否を判定した結果、「良い枝」と判定されたため、ジョンさんは早速クライムダウンして、ツリークライミングの有用性を説明しました。
ところで今回のプロジェクトは、嵯峨芸術大学の真板教授と京都大阪森林管理事務所の村上幸一郎がジョンさんの人柄に惚れ込み、お声を掛けて下さったものです。また、京都では真板教授の町屋造りのお宅に泊めて頂き、京都の町を満喫したのです。
〈 おわり 〉
副代表 川尻秀樹